Abyss

日々の思索と妄想と魑魅魍魎。三木清の『人生論ノート』とパスカルの『パンセ』が私の心の拠り所。Peace.

「勢い」を考える

 「勢い」というものが欲しい。今年こそ、修士論文を提出し、心身の健康を取り戻し、日本語と英語の語彙を蓄え、音読と朗読を習慣とし、宗教や哲学や思想の自学学習を継続し、ドラムの練習を本格的に行い、などなど、やりたいこと、興味あること、好きなことを果敢に取り組みたい。

 さて、「勢い」とは何か。デジタル大辞泉から、現代的な語義を見てみよう。

 いきおい【勢い】いきほひ

🈩〘名〙

①他を圧倒する力。活気。気勢。「—を増す」「破竹の—」

②社会を支配する力。権力。権勢。「武力を背景に—を振るう」

③自然の活動力。「水の—で流される」「火の—が強い」

④盛んな意気。元気。「一杯飲んで—をつける」

⑤物事が動くときに加わる速さや強さ。「下り坂で—がつく」「筆の—」

⑥余勢。もののはずみ。なりゆき。調子。「時の—に乗じる」

🈔〘副〙その時のなりゆきで。必然的に。「その場の雰囲気から—そう答えざるを得なかった」

下接句:騎虎の勢い・旭日昇天の勢い・飛ぶ鳥を落とす勢い・破竹の勢い・日の出の勢い。勢いに乗る・勢い猛

 

 「勢い」が、虎や太陽、天空を飛ぶ鳥、竹林などに喩えられるのは面白い。人間離れした動物的、自然科学的エネルギーが「勢い」という言葉には込められている。副詞的な用法では、必然的な、という意味もある。宿命論的、運命論的な匂いも「勢い」には備わっている。その場その時の状況の流れ、どうにも自分では抗いきれない物事の速さや強さがあるのだろう。「勢いに乗る」とは、成り行きから生まれる機会をうまく利用する、という意味だ。

 ところで「成り行き」とは何であろうか。同じく辞書から引用しよう。

 なりゆき【成り行き】

①物事が次第に変化していく様子や過程。また、その結果。「事態の—を見守る」「—にまかせる」

②「成り行き注文」の略。(顧客が銘柄と数量だけを指定し、値段はその時の相場で取引するように出す売り買い注文。⇔指値注文)

 

 「勢い」と「成り行き」の語義を組み合わせるとどのようになるのか。勢いを身に付けるとは、精神の内奥で認識を支配する本能、動物的知性(経済学者のケインズの「アニマル・スピリッツ」を連想させる言葉だ)を鮮明に自覚するような行為である。論文を提出する、走る、歌う、朗読する、物を書く、物を調べる、翻訳する、ドラムスを叩く、なども、きっと「勢い」なしにはできない。否、生きること自体、内奥から湧き上がる「勢い」無しには成立しないだろう。しかし、「勢い」とは、個人を超えた所にも備わる。家から家、会社から会社、国から国へと「勢い」は波及して行く。時代の趨勢と呼ばれる事態が、必ずや存在する。それが「成り行き」なのだろう。経済活動や政治運営においても、動物行動学に基づいた推論が機能すると思われているのも、人間が集団的動物であるからであるだろう。

 「勢い」が欲しいと思って、今回の投稿を書き始めたのだが、個人のやる気を超えた所に生まれる「成り行き」がどのようになっているのかを確かめたい欲望が高められた。といっても、日本や世界や時代や文明や宇宙といったスペクタルを持つ必要は無い。(持ってもいいけど空想になりそうで怖い)もっとも、半径300メートルで考えるのも、余りに極小な生活空間に留まる。私に相応しい規模の思索規模は、どれくらいなのだろうか。

 思索の規模とは、何から成立するのか。それはまた今度。

 

 一応、纏めをしておこう。

 勢いとは持つものでもなく、自然と湧き上がってくるものだ。更に、個人内部だけで沸き起こる物ではなく、個人の暮らす生活環境にも左右される。双方に影響を与え合うもの、それが勢いであるからして、諦めざるを得ない事態も認めなければならない。ものすごい簡単に説明すると、毎日己に課した仕事の配分を黙々とこなすことが、勢いを保つために必要な姿勢なのだろう。

 私が生きることも、きっと誰かの「勢い」になっているのだ。私の価値や意味とは、私の働きや言葉や作品や取引で第一義的に表されるだろう。「勢い」とは、第二義的な自己表現だ。エネルギッシュな振る舞いや元気さや明るさや健気さは、今の私には最も大切なものだ。孤独とは、この「勢い」を飼い育てる主だ。独立心は、「勢い」の生まれる母体である。依存心は、世界からの「勢い」を貰うために或る程度必要である。苛立ち、焦燥、ニヒリズム、自己嫌悪、自殺企図、絶望感すらも、物の見方を反転させ、体の方向を正せば、巨大な「勢い」にも変換させることができる。

 頑張るのではない。「勢い」を求める。血を巡らせる。これが今の私に必要なことだ。